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概要

masters2019

会報 <日本マスターズ柔道> 2019年1月9日25世界に柔道の輪を拡げて日本マスターズ柔道協会創設名誉会長  野口 宏水 私には二人の崇拝する歴史上の人物がいる。大学入学以降、お二方の恩恵を存分に享受している。お一方は、三度の欧米視察を経て「西洋事情」で欧米文化を日本に紹介(その中には私が生業としてきた生命保険事業も含まれる)、日本の近代化に貢献された福澤先生。もうお一方は、一八八八年柔術諸流派を統合、講道館柔道を完成された嘉納治五郎師範で、日本初のIOC委員となり、日本発〝柔道文化〟は今や世界一九八ヵ国に発信伝播されている。 私は、慶應義塾で体育会柔道部に入り、後に日本体育大学学長を務められた清水正一師範をはじめ、先輩、同輩、後輩から柔道のみならず、人間道をも学んだ。一九五八年、明治生命入社後も、会社、三菱武道部、実業団を通じ、多くの同好の士から諸々の薫陶を受けた。渡航自由化前の六三年には、第一回全慶応遣米柔道使節団に参加し、すべてが先進国の戦勝国米国に、柔道だけは優越感を持つことができ、〝遠征〟で米国を征服した気分に浸った。 「物質万能、個人中心主義が世界に悲劇をもたらしている。西洋文明に未来はない。この危機的な地平の彼方に一条の光を投げかけているのが自然と共存する東洋文明だ。だから、私は合理主義を超越した東洋の雰囲気を求めて柔道を学んでいる。」 時代は下るが、九九年、カナダ ウエランドの第一回世界マスターズ大会での対戦相手エクアドルのドクター J・ファイドウイテイは、こう言って私の優勝を祝福し、握手を求めてきた。 明治生命やその後勤めたアリコジャパンでの海外出張、丸の内柔道倶楽部の親善旅行で訪れたアメリカ、フランス、フィンランド、イタリア、スペイン、エジプト等では柔道愛好家が世界中いたるところに居た。試合で使う言葉や礼儀作法も日本流。日出ずる国日本に始まった柔道に〝一条の光〟を見出した彼らの言葉を聞いて、「世界は柔道を求めている!」と確信した。 世界マスターズ大会に参加するきっかけは、柔道部先輩で、ワシントン柔道クラブ館長の宮崎剛さん(昭三〇年卒)が柔道部のOB会「三田柔友会」の会報で、パンアメリカンマスターズ大会で優勝されているのを拝見したことによる。 大会は第二回以降 ②カナダ・ノヴァスコシア ③米・フェニックス ④英・ロンドンデリー ⑤柔道発祥の講道館 ⑥オーストリア・ウィーン ⑦カナダ・トロント ⑧フランス・トゥール ⑨ブラジル・サンパウロ ⑩ベルギー・ブリュッセル (④英・ロンドンデリー大会を除きすべて金メダルを獲得)十回を重ねてきた。 また第五回講道館大会を機に、日本マスターズ柔道協会を発足、国体開催地で毎翌年に開催することとなり、昨年第五回記念秋田国際大会を終えた。【追記;⑪アトランタ ⑫モントリオール。十二回カナダ・モントリオール大会を以て世界マスターズ大会は幕を閉じ、以降は国際柔道連盟IJFに引き継がれている。更に私自身の12回大会の戦果は、世界マスターズ全十二大会参加・・金10、銀2にて、最後のモントリオール大会にては、文字通り10個を獲得。必死の覚悟で臨み。試合後の念願の10個目の金メダルは将に万貫の重みでアリマシタ!!】 〝生涯柔道を通しての草の根外交〟を旗印に、齢七十、八十を数えて、顔のシワは殖えても心は若々しく、誰に強制されることなく、自主的かつ自費にて世界各地へ柔道着を肩に、世界の柔道愛好家と試合場で相見え、闘い終わっては互いの健闘と技を称え合う、そこに旧い友情が蘇り、新しい友情が芽生える。国境、人種、言語、宗教等を超え、互いの健康、健壽を喜び、さらに訪れる国や地域の歴史、遺跡、文化、風習等に触れ、人生に更に豊かさと輝きを加える・・・。無上の喜びだ。 もう一つの楽しみは、メダルを胸に日本の在外公館を表敬訪問することだ。大使の話を聴き、柔道の形を披露すること。さらに現地の道場を訪問し、交歓稽古や技の指導に加え、同行のご夫人方は持参の折り紙等で日本文化を紹介し、迎える道場の方では手作りの料理や地ビールで、歓待していただくことだ。遠くサンパウロ、ブリュッセルでは八十余歳を最年長にいつも五十人以上が参加している。 清水正敬元柔道部監督(昭40年卒)がいつも同行してくれるので心強い。九五年には、橋本龍太郎元首相からネパールのスルテイ・ビレンドラ王女の柔道初段位授与式にも陪席した。宮崎さんの他、世界的なジャーナリスト古森義久君(昭38卒)、パリ日本文化会館館長の中川正輝君(昭41卒)、全伯講道館有段者会副会長の関根隆範君(昭38卒)等三田柔友会員や、塾員で産経新聞パリ支局長 山口昌子さん等との邂逅も楽しさが加わる。 図らずも今般、米・ケンタッキー州より、ケンタッキーカーネルの称号を贈られた。レーガンやクリントン等歴代の大統領、エルビス・プレスリーやタイガー・ウッズら有名歌手やスポーツ選手が受けているもので、産経新聞の對馬好一君(昭和51年卒、柔友会)が「柔道で世界平和に貢献、米州政府、野口七段に名誉称号」と報道。それを読んだ多くの人からお祝いしていただいた。大変名誉なことと感謝しております。 右は、私の母校である慶應義塾大学の発行する「三田評論」(2009年2月号)の巻頭随筆 「丘の上」に掲載されたもの。この度、本誌への転載許可願を提出して許可頂いたものです。当協会創設に当たって、往時の諸賢諸兄姉のご協力を頂きながら日本マスターズ柔道協会の発足に辿りつき、今日の発展隆盛に繋がったことを敢えてここに披歴して、共に喜びを改めて分かち合いたいものと念じます。宜しくご一読をお願い申し上げます。これは私の上着の内側に刺しゅうされている。(元警視庁師範・溝井賢治氏から寄贈された)